人気ブログランキング | 話題のタグを見る

からまつはさびしかりけり   

 若い頃友人の学生寮に遊びに行ったことがある。
 歴史のある古い学生寮だったが、男子だけということもありまだまだ蛮からな雰囲気が残っていた。
 その友人の部屋には、何代か前の入居者が貼ったと思われる手書きの詩が壁一面に貼られていた。
 それが北原白秋の「落葉松」である。前からその詩は知っていたが、壁一面のその手書きの詩を目の前にすると、書いた人の息遣いまで聞こえてくるようで、なんとも言えぬ哀愁がわいてきたものだ。

  落 葉 松

  一
からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。

  二
からまつの林を出でて、
からまつの林に入りぬ。
からまつの林に入りて、
また細く道はつづけり。

  三
からまつの林の奥も、
わが通る道はありけり。
霧雨のかかる道なり。
山風のかよふ道なり。

  四
からまつの林の道は、
われのみか、ひともかよひぬ。
ほそぼそと通ふ道なり。
さびさびといそぐ道なり。

  五
からまつの林を過ぎて、
ゆゑしらず歩みひそめつ。
からまつはさびしかりけり。
からまつとささやきにけり。

  六
からまつの林を出でて、
浅間嶺にけぶり立つ見つ。
浅間嶺にけぶり立つ見つ。
からまつのまたそのうへに。

  七
からまつの林の雨は、
さびしけどいよよしづけし。
かんこ鳥鳴けるのみなる。
からまつの濡るるのみなる。

  八
世の中よ、あはれなりけり。
常なけどうれしかりけり。
山川に山がはのは音、
からまつにからまつのかぜ。

      北原白秋 水墨集「落葉松」より




by kanitachibana | 2019-06-28 21:54 | 俳句 | Trackback(457) | Comments(0)

<< 君、帰ってくれたまえ 6月22日 讀賣新聞 よみうり文芸 >>