<読売俳壇>
熱燗や中途入社の者同士
高槻市 村松 譲
白菜の日を受けて日を包み込む
呉市 藤岡 賢
甲斐駒も冨士も見えをり寒風裡
上野原市 今井 文和
初雪と言ふ束の間を華やげる
秋田市 中村 耕
足跡は六十貫と熊猟師
津市 中山 道春
寄鍋に寄り集まりて超結社
東京都 望月 清彦
<読売歌壇>
おしろいの花を思わせる乙女あり鶴の橋への道をききたり
栃木市 井岡 幸男
レトルトのカレーの封を切る時も私は思ういつか死ぬこと
守口市 小杉なんぎん
左手でふるえる右手をささえつつ通夜の記帳に友を偲(しの)びつ
横浜市 芳垣 光勇
こころざし高くかかげてひたむきに「論語」よみたし少年のごと
東大阪市 山本 隆
野薔薇(のいばら)のリース飾れば小鳥来るひとり住まいの冬の玄関
岩出市 明治むつみ
落葉(らくよう)はいちょうが一番原節子黒いコートで歩いて来てよ
宇都宮市 木里 久南
外国の言葉とびかう銀座経て午後は猫語の谷中を散歩
八王子市 坂本ひろ子
年末になると漠然とした気ぜわしさとともに、言いようのない不安や焦りを感じてくる。多分に年齢のせいもあるだろうが、ここ数年ことさらにその思いが増してきているようだ。
そんな時俳句は、わずかな字数で思いや情景を簡潔に言い切っており、妙に私の心を落ちつかせてくれる。
また短歌は、ほんの七七が加わるだけなのに作者の情感がたっぷりと伝わってくる。
それぞれに瞬間と流れを得意とするものだろうが、年末のこの時期になると己の来し方行く末ともかぶらせてしまい、ついついしみじみと読み入ってしまう。