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7月14日 讀賣新聞   

<読売俳壇>
歩行器に楷書の名札風薫る   
   川越市 福田 愛子 
かつては自分の持ち物に名前を書いてもらっていたが、今は自分のその親の歩行器に名前を書くようになってしまった。さびしい気持ちにもなってくるが、「風薫る」がまた気持ちを前向きにさせてくれる。

嫁迎へ父の日らしく過ごしけり 
     志木市 谷村 康志
 若い時分は「~らしく」とか聞くと、らしさって何だ?とむきになっていたが、この父親の気持ちはよくわかる。お嫁さんにしてみれば、他人の家に一人で入ってくるのだから不安もあるだろう。さすれば父親も子が一人増えたような気持ちで迎えねばならない。最初はぎこちなくも父らしく。


躙(にじ)り口出でて泰山木の花      
      島根県 おもそ峡人

山の風入れて涼しきまろ寝かな 
    東大阪市 山本 隆浴
 帰省した時など、この気持ちがよくわかる。畳に直接寝転がり大きく伸びをする。当然近くには親がいて、「あらあら、、、」とか言って笑んでいる。

浴衣着てゆくと約束したらしく   
  栃木県 あらゐひとし
 年ごろの娘さんだろうか。親の言う事など碌に聞きもしないのに、なぜか友だちとかの約束は頑なに守ろうとする。友だちとの写真には、親の知らない笑顔がいっぱいだ。

ががんぼの溺れる如く壁をうつ 
     川越市 伊藤 康昭
 

共存といふ闇のあり蟇(ひきがえる) 
      小田原市 木村のり子
 この闇は悪だくみを共有するような闇ではない。例えば、稼働していない炭焼き小屋の窯の中など、その暗闇のなかに複数の生き物が共存している。自然界の厳しさから身を守るために、じっと闇を分け合っているのである。生きるという共通の目的で。

<読売歌壇>
いづこまで行ききしものか暁(あ)け近く鼻の冷たき猫を抱き入る   
                    鹿嶋市 加津牟根夫

給付金で破れた網戸はり替えてステイホームの夕風涼し 
               佐世保市 鴨川 富子

犬を飼え飼えなくなれば引き継ぐと嫁御やさしく桜見上げる  
                   岡山市 上塚 香

私にも優しいあの子の完璧なポニーテールがただしく揺れる   
                  札幌市 三浦 なつ

迷惑な妖精のごと忍び込み子の部屋ちょこっとづつ片付ける  
                  三次市 山本 美和

「あ」を打てば一番先に「会いたい」と出てくるさみしがり屋のスマホ     
                       平塚市 小林真希子

砂浜に寝転びまぶたで太陽の熱さをはかる君が呼ぶまで    
                川口市 高城 ナナ

総菜のレジ袋下げスーパーを出でし夕暮れ 妻ぞ恋しき  
                川崎市 北沢 圭人




by kanitachibana | 2020-08-12 20:17 | 俳句 | Trackback(5) | Comments(0)

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